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最高裁判所第一小法廷 昭和23年(れ)1718号 判決 1949年3月31日

主文

本件再上告を棄却する。

理由

辯護人鍛冶利一、同池辺甚一郎上告趣意第一點及び辯護人池辺甚一郎上告趣意第四點について。

記録を調べてみると、憲法及び刑訴應急措置法の施行前の第二審第一回公判期日において、辯護人から證人中島小千惠外六名の尋問及び檢證の申請をしたのに對し、裁判所は證人小川久義外四名の尋問及び檢證の申請を採用し、證人中島小千惠外一名の申請を却下する旨の決定を言渡している。そして、前記法律施行前公判廷外において右採用した五名の證人尋問及び檢證を行つた。ついで、前記法律施行後の第二回公判期日において、十五日以上開廷しなかつたことを理由として公判手續の更新があり、同期日においては證人中島小千惠に對する尋問の申請はなく、同人の供述を録取した第一審公判調書の證據調等を修了した。そして、第二審判決は、前記公判調書中の證人中島小千惠の供述記載を證據として採用してゐる。論旨は、この證據の採り方を問題としたのである。しかし、同證人の供述は公判廷外のものではなく第一審の公判廷において被告人の面前でなされたものであるから、被告人はすでにその供述の内容を知り悉しおり、被告人はすでに同證人尋問の機會は與えられているのである。從つて、第二審において同證人の申請を却下しておきながら、その供述記載を證據にとつても、別段刑訴應急措置法第一二條又は憲法第三七條第二項に違反するものと言うことはできない(昭和二三年(れ)第七一號、同年六月一〇日第一小法廷判決)。されば、この點に關する第二審判決及びこれを是認している原上告判決は結局正當だということに歸着する。論旨は採用し難い。

辯護人池辺甚一郎上告趣意第二點について。

本論旨は、辯護權の行使を不當に制限した違憲があると主張するけれども、假りに所論のような事実があつたとしても、それは單に違法を招來する可能性があるというだけの話であつて、これをもつて違憲を來たすものとは、到底考えることができぬ。論旨は、再上告の理由としては採用するを得ない。

同第三點、第五點、第六點について。

第三點論旨の前段については、辯護人鍛冶利一、同池辺甚一郎上告趣意第一點について、すでに述べたとおりである。第三點論旨の後段及び第五點、第六點については、假りにかかる事実があつたとしても、それは單なる違法を招來するだけで違憲となるべきものではない。されば、論旨は、再上告の理由として採ることはできぬ。(その他の判決理由は省略する。)

よつて旧刑訴第四四六條に從い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 真野 毅 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

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